僕がマッチングアプリを使うようになってから半年。
(第2話はコチラ【婚活成功物語:第2話】「婚活開始は婚活サイトから」)
だんだん使い方にも慣れてきて、何人かの女の子と会って話すこともできた。
でも、こまごまとメッセージのやり取りを続けている子はいるものの、どうも、付き合う、というところまではいかなかった。
メッセージ交換までは饒舌にいろいろ語れるのに、実際に会ってしゃべってみると何を話していいのかわからなくなって沈黙してしまうことがよくあった。メッセージのやり取りがあっても、初対面であることは変わりないのだ。さほど口が上手いわけではない僕には、なかなかハードルが高かった。
「よお!まった?行こうぜ」
待ち合わせ場所に現れるなり、黒田が声を掛けてきた。
黒田は、Tシャツにジーパン、といういつものスタイルと違って、カジュアルではあるものの、小じゃれたジャケットなんかを着ていた。
髪の毛もしっかりセットされていて、ほんのり香水の匂いもする。露骨ではないが、そこはかとなく気合を感じる服装だ。
「よし。じゃあ、行こう。」
小規模なものから巨大なものまで!街コンとは?
――今度街コンにいってみないか?
先週、黒田と飲んでいる時に誘ったのだ。婚活サイトでくすぶっていた僕が以前から興味を持っていたのが「街コン」だ。
街コンとは、「街」を舞台に開催される、恋活・婚活イベントだ。
一口に街コンと言っても、1,000人以上の男女が参加する大規模なものから、店一軒を借り切って数十名程度で行う小規模なものまでいろいろある。
今回、僕と黒田が参加したのは、黒田の地元の商店街が主催する街コンで、男女合わせて200人ほどが参加するそこそこ大きな規模のものだ。同性の2人1組参加が必須で、一緒に行くなら同じ独身で恋人探している黒田といこうと考えていた。
絶賛婚活中の黒田は二つ返事でOKだった。
受付に行って参加費の支払いを済ませると、ネームカードとリストバンドをつけられた。
リストバンドがあれば、会場となっているお店を自由に行き来できるようだ。各店舗にはスタッフがいて、行けば席を割り振ってくれる。
街コン参加者は「出会いがあればいいな」くらいの、比較的ライトな感覚で来る人が多いらしい。
いきなり婚活モードで行くと、引かれてしまうようだから注意が必要だった。
「街コン」大事なのは第一印象とトーク力!
店に到着すると、街コンのスタッフが半個室の四人部屋に案内してくれた。黒田曰く、下手な街コンだと大部屋に男10人、女2人、なんてミスマッチが出ることもも多々あるらしく、半個室で2対2で話せるのはなかなか良心的だそうだ。
最初に案内されてきたのは、30代半ばのOL2人組だった。会社の同僚のようで、出会いが目的というよりは、「安く飲み食いできる」という理由で参加したようだ。だいたい、こういうイベントは男性より女性の参加費が安く設定されているものだ。なるほど、そういう人もいるのか、と僕は苦笑した。
OL2人組は30分ほど話すと、「違う店に行く」と言って、席を立った。それからしばらく、「黒田と横に並んで酒を飲む」というシュールな時間が流れたが、すぐにスタッフが新たな女性2人組を連れてきてくれた。友達同士だという「ひかりちゃん」と「さくらちゃん」。名前もそうだが、2人とも彼氏がいてもまったくおかしくないくらいかわいらしい子だ。僕も黒田も明らかにテンションが上ったのがわかった。
お互い自己紹介をして、話が始まった。酒が入っていることも手伝ってか、初対面にもかかわらず大いに話が盛り上がる。ひかりちゃん・さくらちゃんも明るい子たちだったし、僕をイジりながら黒田がしゃべりまくるので、終始笑いが絶えなかった。女の子たちも楽しんでくれているようだし、好印象を持たれている、という手ごたえも感じた。
1時間以上みっちり話をして、最後にみんなでLINEの交換をした。マッチングアプリでは連絡先の交換まで行くのが一苦労だったものの、街コンではメッセージのやり取りから会う約束をするまでのプロセスがまるっと省略されるので、その分手っ取り早い。
その上、実際に会ってしゃべるところがスタート地点になるので、文字上の「年収」や「将来性」といった条件のムリにアピールをしてマッチングする必要もない。
プロフィール画像とのギャップに驚いたりがっかりされたりすることもないし、お店のセッティングに頭を悩ませなくてもいい。参加する勇気と、気の合う女性に出会えるか否かを楽しむ余裕があれば、街コンもひとつの手だな、と僕は思った。
イベントが終わり、酒が入って若干気が大きくなった僕は、帰り道の途中、さっそく気に入ったさくらちゃんにLINEでメッセージを送ってみた。
ほどなく、メッセージが返ってきた。今日はとても楽しかった、また一緒に飲みに行きたい、という内容だ。思わず、駅に向かう道を歩きながら、小さくジャンプした。
だがしかし…現実は甘くない
ひかりちゃん・さくらちゃんと出会った街コンから1ヵ月。
僕は、主にさくらちゃんと時折連絡を取っていたが、時間が経つにつれてだんだん頻度が下がっていくのを感じていた。街コンの余韻が次第に遠くなって、「楽しかった」という気持ちが少しずつ薄らいでいってしまったのかもしれない。
結局、街コンの後に僕が二人とどこかに行くことはなさそうだった。まあ、一回二回でうまくいくもんでもないよね、と思っていたところに、さくらちゃんからの久しぶりのメッセージが届いた。何の気なしに見たメッセージで、僕にとっては驚愕の事実が明らかになったのである。
――私、黒田さんと付き合うことになって。
見た瞬間、ええー!?と声を出してしまった。黒田がさくらちゃんとどういう話をしていたのかは知らないし、第一、黒田の口から「さくらちゃんを狙っている」なんていう言葉は聞いていなかった。
そりゃ黒田だって彼女を見つけに街コンに行ったわけだからこうなることだってあるんだろうけど…モヤモヤするばかりだ。
胸の中のもやもやを押し殺しながら、僕は「おめでとう」と祝福のメッセージを送った。
黒田のどこがよかったの?と、試しに聞いてみる。
さくらちゃんは、「どこってこともないけど」と少し照れくさそうな感じで、「おしゃれだったし」「話が面白かったから」と答えた。
街コンの日、ジャケット姿で現れた黒田の姿を思い出した。あいつだって年収で言ったら僕とそう変わらないし、決して顔が特別いいわけでもない。背も僕とどっこいどっこいだし、なにか一芸に秀でているわけでもない。なのに、あいつに彼女ができて、僕はだめだったのはなぜだろう。
きっとそれが、僕の婚活が上手くいかない理由なのだ。<第4話につづく>